
【Luminous本日発売】経済学者・田中秀臣先生から応援コメント
踊るヴァイオリニストRiOをアイドル経済学から読み解く
田中秀臣(経済学者)
グループアイドルにいたタレントは「二回の人生」を経験することになる。その二回の人生をどうデザインしていくか、そこに個々のタレントの能力と運とそして努力が結晶していく。
グループアイドルは作り手の側からすると「分散投資」に似ている。一人のアイドルの卵に多額の投資をして売り出しても、成功するか失敗するかはわからない。むしろ多人数を集めて、団体として売り出した方が、リスクの分散の面では優れている。どのメンバーに実際に人気が集まるかどうか事前には十分にわからないので、それはデビューしてからファンに決めてもらうのだ。ファン側からすると、グループアイドルは一種のパッケージ型の商品にみえるが、それは興味深い福袋にも似ている。自分の好みに合うアイドルとめぐり合う可能性も単体アイドルだけの世界に比べれば確実に増える。
さらに一人ひとりのタレントについて見れば、グループアイドルでのデビューとその後にグループを脱退した後の個別デビューの二回のチャンスを得ることも可能だ。しかも最初の集団デビューの段階で、タレントとしての基礎能力(ファンとのコミュニケーション能力、パフォーマンス経験など)を鍛えることができる。
グループアイドルだったタレントが、そこから脱して単独で活動したときの成功のキーはなんだろうか。経済学でいうところの「人的資本」とコミットメントだと僕は考えている。
「人的資本」とは、アイドル市場で通用する技能のことだ。この技能=人的資本を、日本のアイドルの多くは、ライブ活動やレッスンで経験を積み重ねることで学習し、自分の血肉にしている。この人的資本には二種類あって、どの芸能活動でも利用できる技能である「一般的人的資本」と、そのアイドルグループでしか通用しない「特殊人的資本」である。ライブアイドルであれば、前者はファンとのコミュニケーションの取り方、仕事仲間との協調性や自分の独自性の見せ方などだろう。後者はそのグループアイドルの中での歌やダンスなどがあてはまる。グループアイドルから脱退して、単独で活動するとこの「特殊人的資本」が失われるのが一般的である。そのため後者に魅力を感じていたファンはその段階で離れていく可能性も高い。
コミットメントは、日本語にしにくいが、あえて意訳すると、「ファンとタレントとの長きにわたる約束」としよう。この「約束」は、例えばそのタレントが、グループアイドルにいたときの社会的なイメージを、単独で活動してからも裏切ることはない、と約束することである。グループアイドルを脱退すれば、その段階でもといたグループと一緒に活動することは基本的になくなる。他のメンバーと一緒に歌い踊り、そしてさまざまなイベントでの活動もなくなる。それが「特殊人的資本」がなくなり、ファンが離れる可能性を増す、とさきほど指摘した。だが、他方でグループアイドルでいたときのイメージを保つことに成功すれば、特殊人的資本に魅せられたファンの一定数がそのまま引き続いて残るかもしれない。
しばしばグループアイドルを脱した人が、俳優になるケースが多々あるが、アイドル時代のファンは当初はたくさんついてきても、やがて離れていくことが容易に確認できる。グループアイドル時代からのコミットメントがもっとも成功しやすいのは、他のグループアイドルや単独でのアイドル活動を継続した場合だろう。
さてここまで長々と書いてきた。経済学者というのは本当に理屈ぽいな、と思う(笑。RiOちゃん(いつもそう呼称しているので以下もそれでいく)の一ファンなので、本当はここまで書いたことは個人的にはどうでもいいのだ。RiOちゃん推しとしては、誰に認められなくてもましてや経済学の見地からああだこうだといわれなくても、自分だけ満足していればそれで最高である。そこはファンの皆さんも同じだろう。
だが賢明な皆さんはすでにおわかりかと思うが、いままで書いてきたグループアイドルとそこから脱退して単独で活動始めたタレントの「成功」の要素を、RiOちゃんがすべて持っていることを。
まず「踊るヴァイオリニストRiO」としてのイメージは首尾一貫して、いまもそれは発展している。つまりファンへのコミットメントは強靭だ。素晴らしい。
次にRY’sにいたときに培ったタレントとしての「一般的人的資本」はもちろんのこと、そもそも“踊るヴァイオリニスト”という「特殊人的資本」はグループにいたときも、単独で活動している今日もまったく変わらない。むしろその「特殊人的資本」はそのまま今回のアルバムの中で成長し、見事な開花を成し遂げている。
僕も10年以上、アイドル経済学という特殊人的資本を無為に積み重ねているが、知っているアイドルやタレントがあまたいるなかで、RiOちゃんほどファンとして信頼できる人はなかなかいない。うん、ひとことでいうと、好きだ。
とこれ以上、書くとアイドル経済学の見地から書くという依頼を大きく逸脱するのでやめたい。ただ、一ファンとしてこれからもずっとささやかにコミットメントしていくことは間違いないだろう。
プロフィール
田中秀臣(たなかひでとみ)
経済学者。上武大学ビジネス情報学部教授。
専門は経済思想史・日本経済論。サブカルチャーやアイドルにも造詣が深い。主な著書に『デフレ不況』(朝日新聞出版社)、『雇用大崩壊』(NHK出版生活人新書)、『経済論戦の読み方』(講談社現代新書)、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版社)など多数。最近著は高橋洋一氏との共著『日本経済再起動』(かや書房)。
文化放送『おはよう寺ちゃん活動中』火曜コメンテーター。『iRONNA』等、ネット連載多数。